巻頭言1997

医師国家試験合格率が全国5位1997年)

 

 平成9年第91回医師国家試験の神戸大学医学部卒業生の合格率が全国80校中5位(国立大学43校中3位)に大躍進した事をご存知の方は多いと思う。以前、同門会誌の巻頭言ですこし触れたが、平成7年1月の兵庫県南部地震の後、ボランティアとして医療現場を手伝った学生達の眼の輝きはすばらしいものだった。その時4回生であった学生が今年度の受験生である。昭和63年から平成6年まで、震災前の本学卒業生の合格率をさかのぼると、最高は昭和63年度の全国80校中34位(国立大学43校中24位)で、平成3年と6年はそれぞれ54位と52位に落ち込んでいる。ところが、震災後2ケ月後に受験した卒業生が、多くのハンディキャップがあったと思われるのに25位に躍進し、新聞紙上でも報道された。昨年度は26位、今年度は5位の快挙だ。神戸大学医学部学生が震災後、急に頭が良くなったとは思えないし、教官の顔ぶれや授業のカリキュラムもほとんど変化していない。震災が医師になるためのmotivation向上に大きな役割を果したのだろうか?私自身にもその理由が分からない。

 学生のなかには、globalizationinternational studiesといった観点で医療現場に入って行きたい、たとえば、発展途上国でNGOとして働きたいという者が少なからず居る。経済的に未発達の発展途上国では高度技術を必要としない医療ニーズが沢山あり、肌と肌のぬくもりのなかで医師としてのやりがいと存在感を感じとれるからだと思う。震災後の学生ボランティアの窓口になっていたお陰で、学生と接する機会が増え、色々な相談を受けるなかで、彼らが大切だと思っている事やあこがれている事が少しずつ分かってきた。難解な論文の解説をくどくどするよりも、ベッドサイドでの患者との接し方を見せる方が学生のmotivationを高める効果がありそうだ。アメリカの医学教育の目指す目標は、いわゆる"Good Doctor"で、その意味するところは"compassionate and competent"つまり慈悲の心を持ち、かつ医学的能力に優れた医師である。目標は日本の医学教育と同じだが、取り組み方には日米間で大きな差があり、特に卒前教育、卒後教育、教育効果の評価とフィードバック、普遍的治療方針の徹底化、生涯教育の義務化などで格差が指摘されている。日本の医療も標準化、分業体制、相互評価が将来、核になっていくとすれば、医学教育の段階からそれに向かった医師養成が必要となってくる。しかし、同時にcompassionate physicianを作るための教育が強調されねばならないと思う。日本ではこの部分が大きく欠けているのかもしれない。

 平成8年から平成9年秋までに新たに4人の教授と1人の病院長が同門から誕生した。東野英明先生(神戸大、昭和45年卒)が近畿大学医学部薬理学講座教授に、千葉 勉先生(神戸大、昭和49年卒)が神戸大学医学部老年医学講座教授から京都大学大学院消化器病態学講座教授に、馬場久光先生(神戸大、昭和53年卒)が神戸大学保健管理センターおよび大学院医学研究科病態情報学教授に、恒成 徹先生(神戸大、昭和54年卒)が公立和田山病院院長に、木下芳一先生(神戸大、昭和55年卒)が島根医科大学内科学第2講座教授になられた。

 平成9年春から、阿部廣己先生の後を受けて杉本利嗣新医局長が頑張ってくれている。第三内科同門の先生方のご健勝と益々の発展を祈念したい。

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