巻頭言2000

20世紀末2000年)

 

 いよいよ20世紀の世紀末である。普通の世紀末は百年ごとに訪れてくるが、我々がいま体験している世紀末は千年に一度しかない大世紀末である。人間の一生は百年足らずであるから、普通の世紀末さえ体験できない人も多いのに我々は千年に一度しかない極めて希な時代に生きていることになる。人類の歴史を振り返って見ると世紀末には必ずと言っていいくらい画期的な大事件が起っており、それを一つのきっかけとして歴史そのものが大きく転換している。15世紀末、1492年のコロンブスの新大陸到達など、その典型であろう。19世紀の世紀末、すなわち1890年代の始まりの年から第一次世界大戦勃発の直前まで、人類社会は久し振りの平和の中で明るい未来を切り拓こうと努力をし、空前の科学・技術時代を打ち立てた。メガからギガへ、ギガからテラへと限りないマイクロエレクトロニクスの発展を銘し、20世紀には、さらにそれを巧みに利用して、宇宙や生化学の新しい分野に挑戦し、遂には衛星と光ファイバーによるコミュニケーション社会を完成させるに至った。21世紀を自前に控えたこの世紀末にも、我々はインターネットや遺伝子操作の輝かしい発明・発見を目の当たりにしている。千年に一度という大世紀末にふさわしい大発明であるが、人々はその勝利の裏にほのかに見える、恐るべき人類破滅の予兆を敏感に感じとり、不安と恐怖に震えおののいている現実がある。

 ミレニアム(至福千年)はキリスト教圏から出てきた言葉で、キリストが再臨してきてこの地を統治する千年間は正義と幸福と繁栄が約束された理想的な黄金時代が続くという思想が源泉である。いつやってくるのか、ということについては「最後の審判」の後というだけで正確な日時はどこにも記されていない。そのため、様々な推論や憶測がさかんに飛び交うわけだが、かの「ノストラダム」もそうであったように、やはりキリスト教圏では、どうしてもキリのいい西暦2000年に注目が集まってくる。しかも、その直前に襲ってくるという「ハルマゲドン」なる終末思想が人々の恐怖や不安をいやがおうにもかき立てるから、様々なカルトにすがり、オカルトに熱狂するという現象がみられている。オウム教事件、世界各地に頻発するホロ・コーストなどである。

 クローン羊の作製の成功からクローン人間作製も可能であることが明白となった。人間は一卵性双生児を除いて遺伝子が同一の人は世界中さがしても居ない。雄雌が存在し、その生殖活動を通じて極めて多様な遺伝子組成を作り、無限かもしれない外界の変化に対応し人間という種は生き長らえてきた。クローン動物は、その根を長く後世には残し得ない。このようなことは生物学の専門家なら常識中の常識であるが、一方で学者や研究者達の専門閉塞性が現在ほど危険視されている時はない。オウム教団の引き起こしたサリン事件、患者の同意も得ずに実験的な抗癌剤を投与したり、勝手にクローン人間創出の方向に走り出したり・・・もしかすると「ハルマゲドン」は事実として起こるのかもしれないという心配は絵空事ではなくなってきている。でも、人間の英知を信じたい。この空前絶後のパラダイムシフト過渡期を乗り越え、21世紀を良い時代、ベル・エポックにするために我々は真剣に取り組まねばならない。

 平成10年春、大学審議会は文部大臣に対して「21世紀の大学像と今後の改革方策について」答申を提出し、画一的でなく多様性に富んだ人材育成の重要性を強調している。偏差値の評価のみで一流大学、一流企業という時代は去った。競争的環境の中でいかに個性が輝くか、チャンスは逆に増えたとも考えられるであろう。

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