巻頭言2006

医学系研究科長・学部長2006年)

 

 平成18年4月に本医学系研究科・医学部の研究科長・学部長に選出されてから早くも半年が過ぎた。選出に当たって、4年間医学科長として前執行部に参画して得られた経験を踏まえてマニフェストを医科学専攻会議(教授会)に提示し、ほぼ全員の教授の信任を得て研究科長・学部長職に就けたことは大変光栄であったが、同時にその重責に身震いする思いであった。研究科長・学部長として最初の重要な仕事は、本医学系研究科・医学部の将来像をどう描くかであった。マニフェストには、企業で言えばシャープ社を目指そうと書いた。いたずらに規模のみを追わず、誠意と独自の技術によって、独創的な製品を次々と創出し大企業に勝る存在感を示してきた「まねされる商品をつくれ」というシャープ社の創業者早川氏の精神は、規模も小さく人員も少ない本医学系研究科に正に求められる精神であろう。総花的に全ての領域で一流になることは本学規模では無理である。世界に開かれた、オンリーワン精神を貫く特色ある医学系研究科・医学部を目指すために、まず重要なことは本医学系研究科の歴史と実績を評価した上での明確な目標設定である。そして次に、手を付けざるを得ないと判断したことは、その目標を達成するための合理的、合目的な思い切った教員組織の実質的改革である。機能性を考えた、効率的な人の配置、スペースの再配分は、痛みを伴うがやらざるを得ない改革と考えた。

 改革を進める上で、医学系研究科のガバナンスすなわち意思決定プロセスおよび執行システムが重要である。そこで企画・立案と実行の委員会を分け整理した。研究科長のシンクタンクに当たる戦略企画室で企画・立案および意思決定を速やかに行い、教授会での承認後、速やかに実務委員会で執行することにした。委員会の性格と役割を分けることにより、委員会数が減少、会議の回数と時間が短縮され、意思決定が迅速になった。

 本医学系研究科・医学部の目標は大きく分けて二つである。一つはシグナル伝達をKey wordとする世界的研究拠点になるための整備である。もう一つは医学部付属病院の活性化による神戸大学全体および地域への貢献である。この目標を達成するために、平成19年4月より教員組織を診療に携わる教員から成る臨床系組織とそれ以外の教員による基礎系組織に再統合する予定である。基礎系組織は、シグナル伝達世界的研究拠点になるために、外部から有力研究者をリクルートするなどグローバルCOEプログラム獲得に向けて着実に陣容を整えつつある。一方、医学部付属病院活性化の方策については、抱える問題の多さと大きさのため一朝一夕では片付かない深刻な状況に病院が陥っており、短期的な方策と中・長期的な対策に分けて考える必要がある。マッチングシステムに基づく卒後臨床研修制度の実施が引き金となり、今まで水面下で危ういバランスの中で対応してきた問題が一挙に噴出した。大学病院や自治体病院からブランド研修病院への研修医の移動、大学病院や自治体病院における指導医クラスの医師の仕事量の増大と医療現場の訴訟リスクから来るストレス、勤務医から開業医へのシフト、医師とくに若手医師の都心部集中による医師の地域偏在、激務の特定診療科を避けることによる診療科医師数のアンバランスなど問題は山積みである。何から手を付けるか?戦略企画室で審議の結果、内科外科の活性化が重要であるという結論となった。かつて多くの優秀な若手医師が群がった内科、外科において大学離れが進んでいる。研修医や学生の話や各種アンケート結果をみると、彼らが重要視しているものは3つ、すなわち一人前の医師になるための整備された指導体制と豊富な症例、コメディカルやクラークが配置された働きやすい労働環境、給与を含めた待遇及び生活のし易さである。若い医師の大学帰りを促進させ、内科、外科を活性化するためには、まず臨床に軸足を置いた人材育成を目的とした再編が必須と考えた。その基本コンセプトは、次の4つである。

 1.従来の教育研究分野(旧講座)で行われていた診療内容に拘束されず、横断的な診療科の再編を行なう。

 2.内科サブスペシャリティに沿った臓器機能別診療と人材育成、専門領域の分散や重複を避

け、適正な診療科サイズ(人員とスペース)とする。患者数、診療内容に見合う人員を流動的に配置する。

 3.内科サブスベシャリティで分類される11診療科に対応する11教育研究分野(大学院組織)を策定し、これらを纏めて内科大講座とし、主任教授(チェアマン)を置く。主任教授は、関連施設との病-病連携、医師派遣などを所掌するとともに11診療科(教育研究分野)間の連携体制を構築し、構成員に内科医としての幅広い知識と実力がつくような方策を練る。

 4.従来の教育研究分野(旧講座)単位での関連施設との人事交流から、内科の窓口は一つにした人事交流へ転換し、更に外科を始め他の臨床各科と調整しながら大学全体として関連病院との戦略的連携を目指す。

 このような組織改革をしても若い医師が神戸大学に興味を持ち神戸大学の内科チームの一員になってくれるかどうかは分からない。最も重要で、かつ大学サイドで真剣に取り組めば出来ると思えるのは、前述の3要素の内、"一人前の医師になるための整備された指導体制と教育プログラム"そして"大学病院ならではの豊富な症例"だ。内科サブスペシャリティの責任者である診療科長は、このことを念頭に最高の臓器機能別診療および教育研究指導体制の構築とそのためのプログラムを策定して欲しいと念願している。

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